いましろたかし – 引き潮

本日発売のいましろたかしの新刊、「引き潮」。古巣、コミックビームに戻って、12回に渡って連載されたものですが、もはや、彼の近年のイメージ「枯れ」を通り越して、どうにもならない現実に対する諦観がピークを迎えた作品と言っても過言ではないと思います。

引き潮 (ビームコミックス)

著者/訳者:いましろたかし

出版社:エンターブレイン( 2010-07-24 )

定価:¥ 798

Amazon価格:¥ 798

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 404726671X

ISBN-13 : 9784047266711


コミックビームでの連載で確立された「盆堀さん」を読んで、ここまでオチがなく、どう考えてもアグレッシブな展開もない、ある種のすがすがしさを感じていた自分にとって、この「引き潮」は更に進化しています。一度は、同じところで同じ事をやってもしょうがない(そして、児童向けは金になるから)と、ボンボンで「化け猫あんずちゃん」を連載しても、ボンボンが休刊してしまい、その愛らしい「あんずちゃん」のキャラクターは、確かにいましろの新境地を切り開いたと思っているのですが、結局、古巣に舞い戻ってしまい、さらにダウナーな日々を書いてしまったいましろ先生。

過去に登場した盆堀さん、ダウナー春山、などのキャラクターを敢えて封印し(盆堀さんのみは一話に脇役として登場するが)、完全に一話一話が切り離された形として書かれたマンガです。欲望を抱いても何もできないキャラクターとか、オチがない、という点では「盆堀さん」と共通していますが、どの話を読んでも、もはや、もうその次元さえも投げ捨ててしまったような、どう表現して良いかわからない「投げっぱなし」の話で終わってしまいますこれを娯楽作品として読む、ということが果たして正しいことなのかどうか、ということを読者が自問自答しかねないほどの素晴らしさです。猫が散歩でスケボーに乗るだけで一話完結してしまう、というような、日常の何でもないことを大げさに語ることなく、見た人はそっと心の中にしまってしまうのです。

初期のいましろたかしの、どうにも片付けない若者の発散されないエネルギーが、中年になってもはや発散されるすべすらないということを、自覚したような作風に、俺は心を打たれてしまいます。決して、その事は、作品の中には表現されていません。そのことを拒絶している、と言っても良いでしょう。しかし、あきらめの裏返しとして、やはりどうしようもない鬱屈が「話」と「話」の間に渦巻いている感じがするのです。絵は以前にもまして、白さを増しており、「化け猫あんずちゃん」で取り戻した背景の書き込みなども、すっかりビーム時代に戻ったように「白い絵」になっており、すかすかです。

帯の売り文句に、浅野いにおが「もしみんながいましろさんの漫画を読んで、つまらないと言うならば、もう漫画が滅んでも僕は構わない」という言葉を書いています。浅野いにおは未読で、俺の好みにあった漫画家かどうかもよくわかりません。しかし、俺はこの言葉を「新井英樹」に当てはめて考え、その正反対ものとして「いましろ」に当てはめてみたとしても、やはり、そう思うのです

そう、この本は空気で出来ているのです。紙で出来ているのではないのです。

化け猫あんずちゃん (KCデラックス)

著者/訳者:いましろ たかし

出版社:講談社( 2007-11-16 )

定価:¥ 590

Amazon価格:¥ 590

コミック ( 152 ページ )

ISBN-10 : 4063723887

ISBN-13 : 9784063723885


盆堀さん (BEAM COMIX)

著者/訳者:いましろ たかし

出版社:エンターブレイン( 2007-09-25 )

定価:¥ 998

Amazon価格:¥ 998

コミック ( ページ )

ISBN-10 : 4757737289

ISBN-13 : 9784757737280


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